政治思想のお勉強について(未完)

昨今は安保法制の議論喧しく,恐らくは重要なトピックなのであろうがキナ臭さにうんざりだと沈黙している諸兄も多いことであろう。

お察しの通り安保問題は高度な専門性を要する。法解釈もこれを読めば分かる通り非常にテクニカルであり正直門外漢が一朝一夕で習得できる類いのものではなく,また安全保障上の是非もまた難しい問題である。だがあえてこのエントリでは法・制度・正義の底流となっている思想を扱ってみようと思う。急がば回れだ。

あと基本的に上から順に読むことを推奨します。 


西洋政治思想史 (有斐閣アルマ)(参照

高校倫理はカリキュラムや政治的な問題で色々ズタズタなのでまぁ大学生以上ならトピックごとに学者が書いた入門書で学んだ方がよいです。 有斐閣アルマシリーズは社会科学の入門書として手堅いものが多いということも覚えておこう。 


これからの「正義」の話をしよう (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)(参照

ご存じマイケル・サンデルさんです。いやぁ流行りましたよね。あんだけ流行ったのに内容を理解したとはとても思えない言説が相変わらず世の中飛び交っていますね。買うだけ買って読まなかったんですかね。

法哲学の中にある「正義論」というジャンルに絞って各位が高校でも習ったであろう思想家について平易に語る。まぁ内容は学部のごくごく初級レベルの講義なので正直これで正義論を分かった気になって語るのも本当に勘弁してほしいのだがサンデルの講義の配列が素晴らしいのはたしかなので『西洋政治思想史』や高校倫理の復習気分でサクッと読んでみるとよい。 まぁでもカントのところは実際結構難しいと思う。正義論はロールズが結局一番大事でそこを理解するためにはカントは逃げられぬので頑張ろう。リベラリズムの次はサンデル自身の共同体主義について導入だけ語られるのだがまぁこれだけだと正直消化不足であろう。気になった人は『集中講義!アメリカ現代思想リベラリズムの冒険 (NHKブックス)』(参照とか『二十世紀の法思想 (岩波テキストブックス) 』(参照あたりを頑張って読んでください(難しいです)。


 自由はどこまで可能か=リバタリアニズム入門 (講談社現代新書) (参照

個人的にこれはかなりおすすめ。 サンデルの本でも批判の対象とされた自由至上主義,リバタリアニズムリバタリアンたる森村先生が明晰に語りそして擁護する。 基本的に「経済右派」は金持っててそれを誰にも渡したくないんじゃ以上の主張でしかないのでポジショントーク以上の意味を持ちえないのだが法哲学サイドからのアプローチを読むことによってなるほどジョン・ロックなどをこうやって引っ張ってくるのかと考え方自体がとても勉強になるであろう。 自由権の根拠が自己所有権(プロパティ)にあるならば所有権が果たして本当に絶対的なものなのかというところから切り崩されかねないというのも 311 の事後処理で財産権(プロパティ)の制限が議論されている昨今としてはエキサイティングなところだ。


 デモクラシー (〈一冊でわかる〉シリーズ)(参照

オックスフォード大学出版局 Very Short Introductions シリーズの翻訳。そもそもこのシリーズが非常に優れているのだが岩波だったり他の出版社だったり翻訳がバラバラなのがつらいところである(しかも VSI シリーズの訳であることがどれも分かりづらい)。英語読めるとよいですね。

民主主義とか共和制とか実際ほとんどの人はまともに考えたことがないと思うので改めて考えてみるとよいと思います。


 共和主義ルネサンス―現代西欧思想の変貌(参照

そもそも日本は共和制のコンテクストと縁が遠すぎてあまりピンとこないのだがそれについて概説している。絶版なので頑張ってください。

日本には知的にまともな保守主義が根付かなかったのでそこらへんと関連したお勉強をしたい人は『保守のアポリアを超えて: 共和主義の精神とその変奏』(参照も読むとよい。インテリすなわちリベラルという構図でしか語れないのは本当に貧しいので。